ちょっとお昼に贅沢をしようと「いきなりステーキ」へ行った時の事。
「いきなりステーキ」は昼のランチタイムがお得で、近所の店はワイルドステーキとハンバーグが半々になったお得感満載の限定セットもある。
いつも長蛇の列ができる人気店なのだが、その日は開店直後の11時過ぎに店に到着したので並ぶ事なく席につけた。 席はちょうど厨房の前あたり、店のスタッフが待機している場所の目の前だった。
さて、お冷を持って注文に来てくれたスタッフの方、どうも話し方がたどたどしい。 よく見ると60歳はとうに超えているだろうか、白髪頭の男性の方だった。
定年後のアルバイトなのか、大変だなあと思いながらお目当ての品を注文して待つことに。
お客さんも増えてきてあっという間に満席になり、スタッフも慌ただしく動いている中、慣れない対応で四苦八苦している 例の男性の姿を自然と追っていた。
注文をとるのもたどたどしく、料理を持っていく動作も心配になるくらい危なっかしい。注文を間違えたり、料理を持っていく席を間違えたり、あげくの果てには皿を落としたりと、別のスタッフから何度も注意を受けている。
おそらくウエイターのようなサービス業の仕事は初めてなんだろう。
「がんばれ」と無言の応援をしていたが、そういえば私の注文した料理がまだ来ていない事に気付いた。 後から入ったお客さんは既に食べている人もいるので、私の頼んだ料理は間違えて別のところへ持って行ってしまったのだろうと確信したが、 こちらから催促するのはやめておいた。
やがて、別のスタッフがそのミスに気づきやっとこ私の料理を慌てて作り始め、丁寧なお詫びと共に食事が運ばれてきた。
やはり例の男性スタッフが間違えたらしく、こんどは店長らしき人から注意を受けていた。
文章にするとわかりづらいと思うが、この男性スタッフ、本当に何から何まで上手くできない方なのである。 きっとこの仕事には向いていないんだろうが色々な事情があってこの店で働き始めたのだろう。
ふと自分と重ね合わせてしまった。 私も脱サラという聞こえは良いがセミリタイヤした身で、なかなか新しい仕事は軌道に乗らず、生活のため何らかのアルバイトをする事も 視野に入れはじめているこの頃であるからである。
年老いてから経験のない仕事をするのは大変だ。だけどそれでも働かなければならない高齢社会の現状は何とかならないものだろうかと考え、 私もこんな感じで苦労するんだろうなと暗く不安になり、食事中もずっと例の男性を応援していた。
他のスタッフは若い人ばかりだ。自分の息子以上に年が離れている若い人に注意されるのはプライドは傷つくだろうし見ているこちらも悲しくなる。
ただ驚いた事に、こんなにミスばかりしているのに他の若いスタッフは嫌な顔を1つせずに笑顔さえ見せて、 きちんと目上の男性へ敬意を払って注意をして更には励ましている。 そして、男性のミスをカバーするために自らお客さんへお詫びをしに行き、ミスのせいで増えてしまった仕事を淡々とさばいている。
凄い!
昔の私だったら部下がミスを繰り返していたら怒鳴りちらしていた事だろう。
「今の若い人は」というのが私達のような歳をとってきた者達の長年に渡る日本の悪しき文化である。 だけど、少なくともここにいる若いスタッフの方々は、私が若い頃(今の私も含め)よりよっぽど人間ができているし優れた立派な人たちである。
こんな若い人たちがたくさんいるだろう日本の未来はまだまだ捨てたもんじゃない。
少し気分が良くなり、ささやかな贅沢ランチを終え、今後来る時までに例の男性スタッフが仕事に慣れている事を願いながら帰路についた。