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ほたるのテラス ー Starting Over ー 人生やり直してみませんか

雑記

父の事

投稿日:2017年11月27日 更新日:

常識を重んじる寡黙な人であった。
父の身体には戦時中の傷跡があった。
シベリアで長い間捕虜になっていたと母から聞いた事があるが詳しい事は知らない。父に聞いても戦時中の事は決して語ろうとはしなかったからである。
映画が好きな父は外国の派手な戦争映画は観たが日本の戦争映画は観なかったらしい。
よほど思い出したくない事だったのだろう。

昔の勤め人は週休二日制ではなく日曜日のみ休みだった。
日曜になるとたまに父は当時の後楽園球場のセンターのスタンド下にあった場外馬券売り場へ連れて行ってくれた。もちろん常識人の父であったからささやかな楽しみだったと思う。
東京の中仙道にまだ路面電車が走っていた頃である。
馬券売場に着くと、屋台のアメリカンドックみたいなのを1本買い与えられ、ここで待ってなさいと言われた。小学校にも満たない小さな私は食べながら父が馬券を買って戻るのをひたすら待っていたのを覚えている。 ご馳走目当てに連れて行ってもらえるのが嬉しくて当時の日曜日の楽しみになっていた。

旅行には3度連れて行ってもらった。
伯父の転勤先であった三重の津と鳥取、そして大阪の万国博覧会だ。
すさまじい混雑の万博で太陽の塔に入りたくても混んで入れず不貞腐れている私の写真が残っている。大人になってから何度も仕事で大阪へ行き、今度こそ万博記念公園に行こうと思っていたが未だに行ってない。いつか必ず太陽の塔を見に行こう。

厳格な父であったが不思議と怒られた記憶はない。恐らく怖い父の前では良い息子を演じていたのだろう。
大学に行かずに働くと言った時にも何も言われなかった。
1年も満たないうちに最初の仕事を辞めた時にも何も言われなかった。
実家を出てフリーターのような生活をしている頃、一度だけ私のボロアパートに父が訪ねてきた事がある。
たいした話をする訳ではなく焼酎を一杯飲んで帰っていったのだが、父が去った後、机の上の雑誌に一万円札が挟んで あった。
まるで小説のような話だがあの時の感激は今でも忘れられない。

それから改めて就職をした時、採用の電話が自宅に来て父が電話口に出て、採用先の会社の社長に「うちの息子はがんばりますから、どうかよろしくお願いします」と言ってくれたらしい。
「良いお父さんだね」と、その話を社長から聞いたのは入社してからしばらく経ってからの事である。
私が地方に転勤する時も何も言わなかった。
ただ、転勤先は父の故郷にわりと近いところだったので、いずれは私のところへ来て一緒に住みたいと母に言っていたらしい。
結婚する時にも何も言わなかった。
とにかく私の進路の事で父に何か言われた事は一度もない。
いつも私の意思を尊重してくれていたんだと思う。

初孫をやっと父に抱かせる事ができたのは父が亡くなる1年前の事である。
突然、余命6ヶ月の宣告を受けた衝撃。
冗談だろうと思っていたが日に日に弱っていく父を見て覚悟を決めなければならなかった。
結局、父には告知はしなかった。
亡くなる数日前、病院のベッドの横に座っていると父が何やらずっと私に向かってしゃべっている。
しかし、既に呂律が回らず何を言っているのがさっぱりわからない。
父の顔を見ると怒っているようにも見え真顔で言い聞かせるように話している。おそらく自身の死期を悟り、父として私に何か伝えようとしたのだろう。
あの時、父が私に何を言おうとしていたのかずっと気になっている。
いつか私が父の元へ行った時に教えてもらおう。

私が仕事に行き詰まり悩んでいる時、誰よりも父に相談したかった。
実家の仏壇に行き無言の位牌に話しかけた事も何度かあった。
そういえば、父とは一緒に酒を飲んだ事もないし、ましてや私の悩みの話などした事などない。
もう少し長生きしてくれれば色々相談できたはずだと思うと悲しい。

先日、久しぶりに父の墓へ行ってきた。
晩年父が好きだった赤ワインを墓前で一緒に飲んで私がこの春に退職した事を報告した。
父が「息子はがんばります」と言ってくれた会社を定年まであと数年で退職してしまった私。
今度こそ父に叱られただろうか。

父が亡くなった時、遺体の前で何もわからずニコニコしていた私の娘は今年成人式を迎えた。

 

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